裁量保釈とは?保釈につながる6つの「特別の事情」を弁護士が解説

  

このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。

 

 

 

裁量保釈とは

裁量保釈とは

 

裁量保釈とは、裁判官が被告人の様々な事情を考慮して適当と認めるときに職権で許可する保釈です。

 

 

弁護士が保釈を請求すると、裁判官はまず権利保釈を許可するかどうかを検討します。権利保釈は、法律で決められた除外事由がなければ、必ず許可しなければなりません。逆に除外事由がひとつでもあれば、必ず却下しなければなりません。

権利保釈とは?裁量保釈との違いや6つの除外事由を解説

 

 

除外事由があれば権利保釈は許可されませんが、まだ保釈のチャンスは残っています。

 

 

裁判官が、被告人の逃亡や証拠隠滅のおそれの程度、被告人の健康上、経済上、社会生活上、防御の準備上の不利益などを考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許可することができるのです。これが裁量保釈です。

 

 

裁量保釈が許可されない場合でも、勾留期間が不当に長くなったときは、「義務的保釈」というタイプの保釈が認められる余地がありますが、実際に認められることはまずありません。

 

 

そのため、事実上、裁量保釈が保釈に向けた最後の手段になります。

 

 

裁量保釈の条文は?

裁量保釈は刑事訴訟法90条に規定されています。

 

 

【刑事訴訟法90条】

裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

 

 

裁量保釈と「特別の事情」

裁量保釈が問題になるのは、権利保釈が認められないときです。権利保釈が認められないということは、少なくとも除外事由のどれか一つにひっかかったということですから、原則として保釈が適当でないといえます。

 

 

そのため、裁量保釈を認めるためには、保釈を許可すべき特別の事情が必要となります。

 

 

裁量保釈と「特別の事情」の具体例

裁量保釈と「特別の事情」の具体例

 

1.被告人が重い病気にかかっている(健康上の不利益)

被告人が生命にかかわる重い病気にかかっており、刑事施設の中では適切な医療を受けることが期待できないときは、「特別の事情」があるとして裁量保釈が許可される可能性が高くなります。

 

 

保釈請求する際は、弁護士が診断書や医師の意見書を裁判所に提出します。

保釈と病気

 

 

2.解雇のおそれ(経済上の不利益)

身柄拘束が長期化すると、勤務先から解雇される可能性が高くなります。そのようなケースでは、「特別の事情がある」として裁量保釈が認められる余地があります。

 

 

弁護士が就業規則や勤務先とのやりとりをまとめた報告書を裁判所に提出し、これ以上勾留が続けば解雇される可能性が高いことを説明します。

 

 

3.会社経営の必要性(経済上の不利益)

被告人が会社を経営しており、早期に復帰しなければ事業の継続が困難になり、従業員や取引先など多方面に影響が及ぶ場合、「特別の事情がある」として、裁量保釈が認められる余地があります。

 

 

被告人がいなければ事業が立ち行かなくなることについて、従業員や役員に報告書を作成してもらい、裁判所に提出します。

 

 

4.子の養育(社会生活上の不利益)

母子家庭等で、母親が逮捕・勾留されたことにより、子どもが親族や施設に預けられている場合は、子の福祉という観点から「特別の事情がある」として裁量保釈が認められる余地があります。

 

 

子の養育状況について弁護士が報告書を作成し、保釈請求の際、裁判所に提出することが考えられます。

 

 

5.裁判員裁判に対応する必要性(防御の準備上の不利益)

裁判員裁判では、連日開廷の集中審理が予定されています。被告人の身柄が拘束されていると時間的・場所的な制約があり、弁護士との打合せを十分に行うことができず、集中審理に適切に対応するのが難しくなります。そのため、「特別の事情」があると判断されやすくなります。

 

 

6.依存症治療の必要性(その他の不利益)

性犯罪や薬物犯罪では、医師やカウンセラー等の治療を受けることが考えられますが、勾留中は治療を受けることができません。早期に治療を受けるという観点から、「特別の事情」があると判断される余地があります。

 

 

保釈請求の際は、実際にどのような治療プログラムを受けるのかを、弁護士が裁判官に説明します。

 

 

実際は、これらの事情が一つでもあれば常に裁量保釈が認められるというわけではなく、逃亡や証拠隠滅のおそれが小さいことを前提として、総合的に判断されます。

 

 

【法改正】判決後の裁量保釈は厳しい?

【法改正】判決後の裁量保釈は厳しい?

 

第一審で実刑判決を受けた場合、控訴を見すえて再び保釈を請求することができます(再保釈請求)。

 

 

実刑判決を受けて逃亡のおそれが高まったといえることから、再保釈については権利保釈は認められません。そのため、裁量保釈のみを求めることになります。

 

 

2023年の刑事訴訟法の改正により、一審判決後は、原則として、勾留にともなう被告人の不利益の程度が著しく高い場合しか裁量保釈が許可されないことになりました。

 

 

【刑事訴訟法第344条2項】

拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第九十条の規定による保釈を許すには、同条に規定する不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならない。ただし、保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでない。

 

 

法律の規定を見る限りは、一審判決後は裁量保釈のハードルが一気に上がったようにも思われますが、実務では改正法の施行前後で再保釈率が大きく変わった印象はありません。

 

 

法制審議会でも、法改正の目的は、再保釈の要件を明確にすることであって、裁量保釈の範囲を限定しようとする趣旨ではないとの答弁がなされています。

 

 

裁量保釈のQ&A

家族の結婚式が間近に迫っていることは、裁量保釈の「特別の事情」にあたりますか?

 

 

冠婚葬祭のように1日で終わるイベントについては、「特別の事情」とまではいえないケースが多いです。まずは保釈請求をして、却下された場合は、「勾留執行の停止」を求めることになります。

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