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特殊詐欺と保釈
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
検察官の保釈意見
弁護士が保釈請求をすると、裁判官は検察官に対して、保釈請求に対する意見を求めます。検察官が「保釈すべきではない。」という意見のときは、書面で具体的な理由を明らかにしないといけません。
オレオレ詐欺や振り込め詐欺のケースでは、検察官は、ほとんど全てのケースで、「保釈すべきではない。」という意見を出してきます。その場合のよくある理由と弁護士による反論のポイントを以下にまとめました。
検察官の保釈意見1:未検挙者との口裏合わせ
意見の内容
①被告人は、捜査段階において、本件犯行への関与を否認し、取調べに対しても黙秘していた。
②公判期日においては公訴事実を認める供述をしたものの、なお被告人の言い分の詳細は不明な状況である。
③詐欺事件に関与した共犯者のうち指示役や首謀者などは検挙されておらず、組織の全体像が解明されたわけではない。
④このような状況で被告人が保釈されれば、未検挙の共犯者らと通謀し、自己の役割や共謀状況、報酬の受け取り状況などの重要な情状事実について口裏合わせをするなど証拠隠滅のおそれが極めて大きい。
⑤したがって、保釈を認めるべきではない。
弁護士による反論
①検挙されていない者が、保釈された被告人と連絡をとりあって口裏合わせを行うメリットがなく、そもそも被告人が未検挙の関係者と接触・連絡できる状況ではない。
②被告人の家族も被告人を監督することを誓約している。
解説
否認や黙秘をしていれば検察官は必ずこのような反論をしてきます。
【反論①について】
オレオレ詐欺や振り込め詐欺のような組織的詐欺の事件では、関係者が全員逮捕されるということはまずありません。そのため、検察官は、「被告人を保釈すれば未検挙の共犯者と通謀する可能性が高いので保釈を認めるべきではない」という意見を出してきます。
詐欺グループの関係者が、逮捕・起訴された後に保釈された人間と電話でやりとりをしたり、直接接触すると、自分にも捜査が及ぶリスクが高まります。
そのため、一度逮捕された者は、リーダー格以外は、とかげの尻尾切りのようにグループから見捨てられてしまい、その者から未検挙者とコンタクトをとることはまず不可能です。したがって、リーダー格でない限り、口裏合わせの可能性は非常に低いといえます。
【反論②について】
家族が監督しているという状況は最低限必要でしょう。別居している家族よりは同居している家族の方が監督の実効性があると判断されます。
逮捕前から家族が被告人と同居していた場合は、検察官から「同居していたのに未然に詐欺を防ぐことができておらず、監督能力に疑問がある。」等と言われる可能性が高いです。具体的にどのような形で監督するのかを弁護士が保釈請求書に明記すべきです。
検察官の保釈意見2:被害者に対する働きかけ
意見の内容
①被告人は、捜査段階において、本件犯行への関与を否認し、取調べに対しても黙秘していた。
②公判期日においては公訴事実を認める供述をしたものの、被害者の供述調書の一部について不同意として、犯行状況を争う姿勢を見せている。
③このような状況で被告人が保釈されれば、被害者に対して働きかけをして困惑させ、被告人とのやりとりについての記憶を混乱させ、捜査段階と異なる供述をするよう仕向ける可能性が高い。
④したがって、保釈を認めるべきではない。
弁護士の反論
①既に示談が成立している。
②公訴事実を認めている以上、被害者とのやりとりの内容が量刑に与える影響は限定的である。
③本件犯行は純粋に金銭目当てのものであり、性犯罪や、怨恨感情に基づく犯罪とは異なり、元来、被害者個人に対する関心・執着は全くない。
④被告人の家族も被告人を監督することを誓約している。
解説
【反論①について】
被害者全員と示談が成立していれば、裁判官も被害者に対する働きかけの可能性は低いと判断するでしょう。このように、示談が成立していれば、刑罰が軽くなるだけではなく、保釈のタイミングが早くなるというメリットもあります。
【反論②について】
オレオレ詐欺や振り込め詐欺の被害者は高齢者であることが多く、被告人とのやりとりを正確に覚えている人はほとんどいません。被害者の供述調書でも、被告人が言っていないにもかかわらず、「犯人から〇〇と言われました」等と記載されていることが少なくありません。
被告人からすれば身に覚えがない発言になりますので、その部分を不同意にしただけですが、検察官からは、「犯行状況を争う姿勢あり」とみられ、このような意見が出されます。
もっとも、罪状認否で公訴事実を認めている限り、被害者との細かいやりとりの内容によって、刑罰が変わってくることは考えられません。したがって、あえて被害者に接触して、供述の変更を迫るメリットがないということになります。
【反論③について】
一般論としても、オレオレ詐欺のような財産犯罪の場合、被告人が被害者に恨みを持っていたり、恋愛感情を持っていたりするわけではなく、保釈中に、被害者に接触を図るようなケースは想定し難いといえるでしょう。
【反論④について】
家族が監督しているという状況は最低限必要でしょう。別居している家族よりは同居している家族の方が監督の実効性があると判断されます。
検察官の保釈意見3:逃亡の可能性が高い
意見の内容
本件は、組織的詐欺を繰り返した悪質な事案であり、被害金額も多額に上っており、相当長期間の実刑が見込まれる。そのため、被告人が長期間の実刑を恐れて逃亡し、公判への出頭確保ができなくなる可能性が十分に認められる。
弁護士の反論
①被告人の家族が被告人を監督している。
②逮捕前の時点で、自身が逮捕されること予期していたにもかからず逃亡していない。
解説
【反論①について】
家族が監督しているという状況は最低限必要でしょう。別居している家族よりは同居家族の方が監督の実効性があると判断されます。
被告人が一人暮らしをしていた場合は、勾留中にマンション等を解約し、住民票を実家に移転した方がよいでしょう。
【反論②について】
被告人が逮捕される前に、同じ詐欺グループの別のメンバーが逮捕され、ニュースで報道されているケースがあります。
そのようなケースでは、被告人も当然、自分にも捜査の手が迫りつつあることを予測できます。その上で、偽名でホテルを転々としたり、海外渡航する等の不審な行動をとっていなければ、<逮捕を予期していないにもかかわらず逃亡していない→逃亡の可能性は低い>といえます。
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