痴漢で逮捕されるケースとされないケース

このページはこれまで痴漢事件を100件以上担当してきた弁護士 楠 洋一郎が、これまでの弁護経験と痴漢捜査を担当している現役の捜査員からヒアリングした内容に基づき作成しております。

 

 

 

 

痴漢で逮捕されるときは現行犯逮捕が基本

痴漢で逮捕されるケースの多くは現行犯逮捕です。逮捕状による後日逮捕のケースもなくはないですが、件数としては現行犯逮捕の方が圧倒的に多いです。

 

 

現行犯とは、①現に犯罪を行なっている者と②今まさに犯罪を行ない終わった者のことです。痴漢のケースでいえば、痴漢をしている最中の人とついさっきまで痴漢をしていた人が現行犯逮捕の対象になります。

 

 

現行犯逮捕は警察官に限らず誰でも行うことができます(私人逮捕)。そのため痴漢の被害を受けている一般女性であっても、加害者を現行犯逮捕することができます。

 

 

痴漢を現行犯逮捕として扱うかどうかは警察の判断次第

現行犯逮捕は私人でもできますが、私人によるとりおさえ行為を法律上の現行犯逮捕として扱うか否かは、警察の事後判断にかかってきます。

 

 

痴漢のケースでいうと、私人である女性が男性をとりおさると、まず駅員が現場に向かいます。駅員は当事者と共に駅員室に行き、警察に通報します。その後、駅員室に来た捜査員が男性・女性の双方から事情を聴きます。

 

 

捜査員は当事者から事情を聴いたり、必要に応じて防犯カメラを確認する等して、現行犯逮捕として処理するかどうかを判断します。

 

 

もし捜査員が「誤認逮捕のおそれがない。」と判断すれば、当初の取り押さえ行為を私人による現行犯逮捕として取り扱い、「現行犯逮捕手続書」を作成します。これにより、女性の取り押さえ行為がさかのぼって現行犯逮捕とみなされることになります。

 

 

逆に、捜査員が、女性があいまいな供述をしている等の理由により、「誤認逮捕のおそれがある。」と判断すれば、女性のとりおさえ行為を現行犯逮捕としては扱わず、現行犯逮捕手続書も作成しません。

 

 

このように現行犯逮捕に相当する行為は、痴漢の最中や直後に行われますが、刑事手続の中で、それを現行犯逮捕として扱うかどうかを決めるのは、警察の捜査員が現場に到着した後になります。

 

 

痴漢で逮捕されるか否かは女性が痴漢の腕を掴んだかどうかで決まる

捜査員が痴漢を現行犯逮捕として扱うかどうかを判断するにあたって、最も気にしているのは「誤認逮捕のおそれ」です。

 

 

痴漢は満員電車で行われるのが通常です。そのため、人違いによる誤認逮捕の可能性がないとはいえません。実際に、人違いの可能性があるとして裁判で無罪になった痴漢冤罪のケースも少なくありません。

 

 

実際には不可抗力で触れただけであるにもかかわらず、女性が痴漢被害を受けたと勘違いしているケースもあります。

 

 

捜査員が「誤認逮捕のおそれがある。」と思えば、痴漢を私人による現行犯逮捕として処理することはありません。捜査員が「この事案では誤認逮捕のおそれはないだろう」と自信をもって判断できるケースに限り、私人による現行犯逮捕として取り扱うことになります。

 

 

痴漢事件で誤認逮捕のおそれが最も小さいケースは、「男性が女性の体を触っているまさにその瞬間に女性が自分の体を触っている男性の手を掴んだケース」です。したがって、このケースでは現行犯逮捕として取り扱われる可能性が非常に高いです。

 

 

痴漢で逮捕-上級国民でも関係ない!

現行犯逮捕の場合、犯罪と犯人が明らかであることから、逮捕状による後日逮捕のように、逮捕の理由や必要性が厳格に求められるわけではありません。

 

 

捜査員が痴漢を現行犯逮捕として処理するかどうかは、「犯罪と犯人が明らか」といえるか、つまり「誤認逮捕の可能性」という一点に集約されます。

 

 

そのため、誤認逮捕のおそれが最も少ない「男性の手が女性の体を触っているまさにその瞬間に女性が自分の体を触っている男性の手を掴んだケース」では、原則として、痴漢は私人による現行犯逮捕として扱われます。

 

 

逮捕状による後日逮捕であれば、事件ごとに逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがあるかどうかを判断します。

 

 

そのため、被疑者が官僚や大企業の取締役、医師、大学教授など社会的地位の高い方であれば、「そのような人間が逃げることはないだろう。」と判断されやすくなり、逮捕されない可能性が高まります。

 

 

逆に、無職やフリーターの方であれば、「失うものがないのでいつでも逃げられる。」と判断され、逮捕の可能性が高まります。

 

 

これに対して、現行犯逮捕の場合は、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれを個別に判断する必要はないため、「男性側の事情は関係ない」ということになります。そのため、痴漢している最中に手を掴まれれば、どんなに社会的立場が高くても逮捕される可能性が高くなります。

 

 

池袋の高齢者暴走事件をきっかけとして、「上級国民は逮捕されない」ということも言われていますが、現行犯逮捕の場合は、そのような属性が逮捕の可能性に影響を与えることはありません。

 

 

痴漢で逮捕の可能性が低いケースと3つの例外

誤認逮捕のおそれが最も少ない「男性の手が女性の体を触っているまさにその瞬間に女性が自分の体を触っている男性の手を掴んだケース」では、捜査員も安心して、痴漢を私人による現行犯逮捕として扱うことができます。

 

 

逆に、次のケースでは、人違いによる誤認逮捕のおそれがないとはいえず、捜査員としても私人逮捕として扱うことに躊躇を覚えます。

 

 

① 痴漢行為が終わった後に車内で女性が男性の腕をつかんだケース

② 痴漢行為が終わった後にホームで女性が男性に声をかけたケース

③ 痴漢行為が終わった後に女性が「この人痴漢です」と言って第三者につかまえてもらったケース

 

 

これらのように女性が痴漢の決定的瞬間をおさえていない場合は、誤認逮捕のおそれがあるので、逮捕されない可能性が高くなります。もっとも、次の5つのケースでは現行犯逮捕として扱われる可能性が十分にあります。

 

 

① 男性が逃走し女性や第三者にとりおさえられたとき

② 女性や周囲の乗客が男性が痴漢している場面をスマートフォンで撮影していたとき

③ 被害者の他にも目撃者がいるとき

④ 電車内がそれほど混雑していないとき

⑤ 男性に同じような痴漢の前科があるとき

 

 

このようなケースであれば人違いの可能性は低いと判断されるためです。

 

 

痴漢で逮捕-根底にあるのは素朴な正義感

警察署で筆者が生活安全課の捜査員と痴漢の捜査実務について話をしていたときに、その方は、「痴漢されているときに、女性が勇気を振り絞って痴漢の手をつかんでいるんだから、その女性の勇気に報いるためにも逮捕してあげなくちゃいけない。」と話をしていました。

 

 

現場の捜査員は日々、正義感をもって業務に励んでいます。ただ、いくら「女性のために何とかしてあげたい。」と思っても、誤認逮捕の可能性があれば、正義感だけで逮捕に踏み切ることはできません。

 

 

女性が痴漢の決定的な瞬間をおさえたときには、「女性のために何とかしてあげたい」という素朴な正義感と「誤認逮捕のおそれはない」という冷静な判断が両立するため、躊躇することなく現行犯逮捕に踏み切ると考えることができます。

 

 

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