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大麻取締法違反で逮捕された後の流れや弁護活動について
このページは弁護士 楠 洋一郎が執筆しています。
目次
大麻は何罪?刑罰は?
大麻を所持したり、他人に譲り渡したり他人から譲り受けたりすると、大麻取締法違反になります。刑罰は5年以下の懲役です。大麻を栽培したり、輸出・輸入した場合は、7年以下の懲役になります。
いずれも営利目的があれば、刑罰がより重くなります。大麻の場合は、覚せい剤と違って、使用については処罰されません。
| 営利目的なし | 営利目的あり |
所持 | 5年以下の懲役 | 7年以下の懲役 *情状により200万円以下の罰金を併科 |
譲渡・譲受け | ||
栽培 |
7年以下の懲役
| 10年以下の懲役 *情状により300万円以下の罰金を併科 |
輸入・輸出 |
*押収された大麻は没収されます。
大麻事件では逮捕されることが多い
大麻や吸引器具はかさばらないため容易に証拠隠滅することができます。被疑者が密売人や一緒に大麻を吸っていた仲間に捜査情報を漏らしたり、口裏合わせをすることも考えられます。
そのため、大麻事件の被疑者は「証拠隠滅のおそれが高い」として逮捕されることが多いです。
大麻事件の逮捕率
2023年版の検察統計年報によれば、大麻事件の被疑者のうち54%が逮捕されています。
「意外に少ないな。」と思われるかもしれませんが、逮捕されないケースの大半は家宅捜索で大麻が出てこなかった場合です。自宅や車、本人の持ち物から大麻が発見されれば、逮捕される可能性が高いです。
大麻で逮捕されるタイミング
大麻所持
警察官や麻薬取締官が被疑者の自宅や車を捜索したり、所持品検査をして大麻らしき物を発見すると、検査キットを使って簡易鑑定をします。陽性反応が出れば大麻所持の現行犯で逮捕します。
⇒現行犯逮捕とは?逮捕状なしで誰でもできる逮捕を弁護士が解説
大麻譲渡・譲受け
警察官や麻薬取締官が、大麻事件で逮捕した被疑者の協力を得て、密売人の身元を特定できれば、密売人を大麻譲渡で逮捕します。
サイバーパトロールで密売人らしきSNSを見つけて、買い手を装い密売人に接触し、泳がせ捜査をした後に逮捕することもあります。
先に密売人を逮捕した場合、密売人の自供や取引に使用していたスマートフォンから買い手を特定できれば、買い手の自宅を捜索し、大麻の所持や譲受けで逮捕します。
自宅の所在地を管轄する警察とは別の警察に逮捕された場合は、密売人が起点となって芋づる式に逮捕された可能性が高いです。
大麻栽培
警察官や麻薬取締官が家宅捜索をして栽培中の大麻草らしき物を発見すれば、押収して科捜研に鑑定を依頼します。
科捜研で葉を採取して乾燥させた後に大麻かどうかを鑑定します。乾燥大麻のようにその場で簡易鑑定をすることはできませんので、現行犯逮捕されることはありません。
大麻草らしき物を押収してから鑑定結果が出るまで3,4週間かかります。大麻であることが判明すれば、被疑者を通常逮捕します。
大麻を栽培している人は、同時に、乾燥大麻も所持していることが多いです。このようなケースでは、まず乾燥大麻の所持で現行犯逮捕し、後日、大麻の栽培で再逮捕することになります。
⇒再逮捕とは?報道や執行猶予との関係など「気になること」を全解説
大麻輸入
空港の税関検査で手荷物の中から大麻が発見されれば、大麻輸入罪で現行犯逮捕されます。海外のネットショップで大麻を購入し国際郵便で送ってもらった際、税関検査で見つかり、後日逮捕されることもあります。
大麻で逮捕された後の流れ
逮捕は最長で3日間しかできませんが、検察官が勾留を請求し裁判官がこれを許可すれば、逮捕に続いて「勾留」という形で身柄が拘束されます。
勾留の期間は原則10日ですが、さらに10日の限度で延長することができます。つまり最長20日にわたって勾留できることになります。
2023年版の検察統計年報によれば、大麻事件で逮捕された被疑者のうち95%が勾留されています。勾留された被疑者の70%について勾留が延長されています。
検察官は必ず勾留の期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければいけません。
大麻で逮捕されたらいつ釈放される?
大麻で逮捕・勾留された場合は、検察官は、最長20日の勾留期間内に被疑者を起訴するか釈放するかを決めなければなりません。
起訴された場合は、保釈請求が許可されて保釈金を納付しない限り、判決の日まで釈放されません。
前科・前歴がなければ、身元引受人と保釈中の滞在先を確保できれば、起訴直後に保釈が許可されることが多いです。保釈金の相場は150万円~200万円です。執行猶予中であったり、複数の事件で起訴されている場合は、保釈金はもっと高くなります。
起訴前から弁護士が準備を進め、起訴されたら速やかに保釈請求書を提出します。
大麻事件の不起訴率
2023年版の検察統計年報によると、大麻事件の被疑者のうち56%が不起訴になっています。半数以上が不起訴になっています。
「意外に不起訴が多いな。」と思われるかもしれませんが、大麻の場合は覚せい剤と異なり使用罪がないため、自宅や身の回りから大麻が発見されなければ、不起訴になることが多いです。
逆に自宅等から大麻が見つかれば、ほとんどのケースで起訴されてしまいます。
大麻でなぜ不起訴?大麻で不起訴になる4つの事例
1.大麻の量が少ない
大麻所持で逮捕されても、所持していた大麻が少なければ、不起訴になることがあります。具体的には、所持していた乾燥大麻の重量が0.5グラム未満であれば不起訴になることが多いです。
大麻を所持している以上、起訴しようと思えば起訴できますが、量が少ない場合は処罰の必要性が低いため、起訴猶予で不起訴にすることが多いです。
2.大麻譲渡で証拠不十分
大麻を譲渡したとして逮捕された場合、既に譲受人が逮捕されていることが多いです。
もっとも、譲受人から大麻が押収されたとしても、大麻の入手ルートは他にもあるため、それだけで容疑者が大麻を譲ったことの証拠にはなりません。
譲渡の容疑で逮捕されても、本人が黙秘することにより、譲渡を裏づける証拠がそろわなければ、起訴しても公判を維持することが難しいことから、嫌疑不十分で不起訴になります。
他方で、譲受人の自宅等から大麻が押収されなかったとしても、何らかの物を大麻として譲渡した証拠があれば、麻薬特例法違反で起訴されることがあります。
3.大麻譲受けで証拠不十分
大麻の譲受け容疑で家宅捜索されても、大麻が押収されなければ、密売人の供述やSNSによって譲受けの事実が立証されたとしても、「譲り受けた物が大麻である」ということまでは立証できないため、証拠不十分といえます。
そのため、大麻譲受け罪については嫌疑不十分で不起訴になります。ただ、何らかの物を大麻として譲り受けたことの証拠があれば、麻薬特例法違反で起訴されることがあります。
4.大麻の共同所持で大麻が見つからない
大麻の共同所持で他の被疑者と一緒に逮捕された場合、自分の身の回りから大麻が押収されなければ証拠不十分と言えます。
このようなケースでは、取調官に誘導されて「友人と一緒に大麻を吸うつもりでした。」といった調書をとられなければ、嫌疑不十分で不起訴になる可能性が高いです。
大麻で不起訴を獲得するための方法
大麻所持
大麻所持罪で逮捕された場合、押収された大麻の量が0.5gよりも少なければ不起訴の余地があります。
もっとも、0.5g未満であれば必ず不起訴になるというわけではありません。覚せい剤のケースになりますが、0.001gの所持で起訴され有罪判決になった例もあります。
微量とはいえ大麻を所持していたことは事実である以上、検察官に対して、反省や再発防止の意欲をきちんと見せることが大切です。
弁護士を通じて、反省文や再発防止プランをまとめた報告書を検察官に提出したり、贖罪寄付をすることにより不起訴の可能性を高めます。
大麻の譲渡・共同所持・輸入
これらの容疑で逮捕された場合、不起訴を獲得するためには、黙秘することにより、捜査機関に自白調書をとらせないことが重要です。
例えば、実際は大麻を譲渡していないにもかかわらず、取調官のプレッシャーに負けてしまい「大麻を譲渡しました。」と自白してしまったとします。
その場合、後の刑事裁判で「本当は大麻を譲渡していません。」と主張しても、検察官から「取調べのときは自白してましたよね?調書にも書かれていますよ。」と突っ込まれ、裁判官にも疑われてしまいます。
取調官は、被疑者に対してあの手この手で自白するよう働きかけます。不起訴処分を目指すのであれば、このような働きかけに屈しないことが重要です。
大麻の共同所持で逮捕されたケースや大麻の輸入容疑で逮捕されたケースについても、黙秘したり、調書への署名を拒否することにより、自白調書をとられないようにすることが重要です。
大麻は執行猶予?それとも実刑?
大麻所持のケースでは、初犯であれば起訴されても執行猶予になる可能性が高いです。具体的には懲役1年6月・執行猶予3年程度の判決になることが多いです。
執行猶予中に逮捕・起訴された場合は実刑判決の可能性が高くなります。以前に刑務所に入っていた方の場合、刑期が終了して5年以内に大麻で検挙された場合は、実刑になります。
営利目的で大量の大麻を所持・譲渡・栽培していたケースや、大量の大麻を密輸入しようとしたケースでは、初犯の方でも実刑になる可能性が高いです。
実刑になる場合でも、刑期の一部について執行猶予が付き早めに社会復帰できることもあります。
大麻で執行猶予を獲得する方法
反省と更生の意欲を裁判所に示す
大麻は合法化されている国もあるため違法性の認識が薄い人が少なくありません。天然のもので副作用がないと誤解している人もいます。大麻についての誤った認識を改め、危険性を正しく理解し反省を深めてもらいます。
大麻は若者の間で興味本位で使用されていることが多いです。大麻と縁を切るためには、大麻を一緒に使っていた仲間との交際を絶ち、身近に大麻がある環境と決別することが必要です。
【弁護活動】
弁護士が本人の反省文を裁判所に提出します。被告人質問で、本人に大麻の危険性や再発防止の決意を述べてもらいます。
一緒に大麻を吸っていた仲間と決別するため、電話番号を変更した上で、変更に関する書類を証拠として提出することもあります。
更生プランを実行する
大麻犯罪は再犯率が高い傾向にあります。依存症になると、自分の力だけで立ち直ることは困難です。保釈後に専門のクリニックに通院し、治療プログラムを受けた方がよいでしょう。入院して集中的に治療を受けることもあります。
モチベーションを維持するために、グループミーティングに参加して他の参加者と交流を深めるのもよいでしょう。
【弁護活動】
弁護士がクリニックの領収証やグループミーティングの参加証明書を証拠として提出します。
家族にサポートしてもらう
大麻への依存から立ち直るためにはご家族の協力も不可欠です。ご家族としても、依存症患者の家族向けのミーティングや保健所の家族支援プログラムに参加し、依存症への対処法を学習します。
【弁護活動】
ご家族に情状証人として出廷してもらい、今後の監督プランを裁判官に話してもらいます。
⇒情状証人とは?尋問の流れや本番で役に立つ4つのポイントを紹介
検察官に即決裁判の申立てを求める
即決裁判とは、争いのない単純な事件について、通常の裁判よりも迅速に審理するための手続です。
大麻取締法違反が即決裁判で審理されると、原則として起訴から2週間以内に初公判がセッティングされ、その日のうちに執行猶予判決が下されます。
通常裁判に比べて刑事手続から早く解放され、確実に執行猶予になることが保証されますので、実刑判決の不安から解放され、社会復帰に専念することができます。
即決裁判を申し立てることができるのは検察官のみですが、弁護士が検察官に対して、即決裁判を申し立てるよう職権発動を促します。次の要件を全て満たす場合は即決裁判になる余地が十分にあります。
①営利目的のない単純所持 ②逮捕当初から容疑を認めている ③大麻の栽培や覚せい剤等の余罪がない ④前科・前歴がない |
【大麻】違法捜査を理由として無罪を獲得する
警察が大麻を押収した際に違法な行為があれば、違法捜査の防止等の観点から、押収した大麻やそれに基づき作成された鑑定書等が裁判の証拠として使えなくなる場合があります。
違法捜査の例として、以下のようなケースが考えられます。
①警察官が本人を羽交い絞めにして、衣服の中から大麻を取り上げたケース ②警察官が令状なしに、本人が拒絶しているにもかかわらず、本人の自動車の中を探索し、大麻を取り上げたケース |
押収した大麻は、被告人が大麻を所持していたことを証明する最も重要な証拠です。裁判で大麻や鑑定書を証拠として使えなければ、結果的に無罪判決が下されることになります。
弁護士が捜査機関の行為に行きすぎがなかったかをチェックし、行きすぎがあれば、「押収した大麻等を証拠から除外すべきである」と主張します。
大麻事件の弁護士費用の相場
大麻事件で逮捕・起訴された場合、弁護士費用の相場は100万円~200万円程度になります。不起訴で終わればこれより安くなることも多々あります。
逆に、違法捜査等を主張して刑事裁判で無罪を争う場合は上記の費用よりも割高になることが多いです。
保釈金(150万円~200万円程度)は弁護士費用とは別に用意する必要がありますが、保釈支援協会や弁護士協同組合を利用することができれば、全額準備する必要はありません。
ウェルネスの弁護士費用は、起訴された場合で総額99万円になることが多いです(税込)。
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